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次世代に解を挑戦のプロット

PROJECT REPORTS 003

埋もれた価値を見える化し
“行動変容”へつなげるために。(3/4)

環境価値をクレジット化し環境と経済を好循環させるスキームを構築

NR-Power Lab株式会社 代表取締役社長 中西 祐一, 最高技術責任者 東 義一 / 恵那市 水道環境部 環境課 課長 磯村 典彦 / 恵那電力株式会社 代表取締役社長 村本 正義 / 株式会社IHI 高度情報マネジメント統括本部 長島 聡志

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「再エネ流通記録プラットフォーム」とはどういうものですか?

NR-Power Lab最高技術責任者 東(以下、NR-Power Lab 東):シンプルに言うと「どこで生まれた再エネが、どういうサプライチェーンを通って、どの消費者に渡ったか」を追跡する再エネトレーサビリティの技術です。

 再エネの発電事業者から、どの電力小売事業者が電力を買い取って、どの需要家に供給したか、全ての取引データを逐一記録します。発電や充電、消費など関連するエネルギーリソースからデータを収集し、確実に査証を残していけるブロックチェーンシステムに記録して、見える化するものです。

今回の実証実験では、どのような課題がありましたか?

NR-Power Lab 東:今回のスキームでは、再エネ価値をJ-クレジットに変換することが前提となるため、発電と消費の取引データを記録するだけでなく、「自家消費」の分をデータとして切り分けて算出する必要がありました。例えば恵那市では、図書館などの屋根に設置された太陽光パネルで発電した再エネ電力を、図書館などで使う分は自家消費して、残った電力は恵那電力が引き取ったり、市内の他の施設で使うということをしていますが、この自家消費分の電力がCO2を減らすことに貢献したということで、その環境価値をJ-クレジットに変換することができます。

 これまでは、自家消費分のデータを切り分けて算出することは想定していなかったので、始めは月末にデータを手動で取り込む暫定的な方法から実装し、その後、スマートメーターから取得できるデータを併せて、それをデジタルで効率的に計算するための仕組みを一歩一歩改善しながら追加していきました。J-クレジットを創出する作業が人手によるアナログな手法では、手間とコストがかかり過ぎて本末転倒ですので、IHIと協議しながら効率化を検討していきました。

 実証実験の最初の段階は、確実に再エネをトラッキングすることでしたが、トラッキングをすると自動的にエネルギーリソースのIoTをすることになって、データがどんどん溜まっていきます。その溜まっているデータを恵那市に対する価値に変えたいと思っていて、IHIのプラットフォームと連携できれば、そのデータをJ-クレジットという形で、埋もれている環境価値を活用する選択肢が増えると考えました。

今回の実証実験にIHIが参加することになった経緯を教えてください。

株式会社IHI 高度情報マネジメント統括本部 長島(以下、IHI 長島):元々リコーと日本ガイシで再エネのトラッキング技術の実証実験に取り組まれていたのと同時期に、IHIでも設備の稼働データなどを収集して、J-クレジットにうまく変換していく実証試験を進めていました。そのような中で、各社の脱炭素化に関する思いが共通であることや、親和性の高い技術を使っていることから、当時のリコーと共創に向けての協議を進めることとなりました。協議の結果、今回は恵那市内の埋もれている環境価値をJ-クレジット化し、域内経済循環をさせるスキームをご提案することになりました。

「環境価値管理プラットフォーム」とはどのような技術ですか?

IHI 長島:IHIとしては、これまで気候変動問題の解決に向け、大きく分けて三つの脱炭素の取り組みを進めてきました。一つは、製品の製造過程における脱炭素化と、製品の利用に伴うエネルギーの効率化・再エネ化です。これは当然ながら、IHIがメーカーであることから必須の取り組みとなります。二つ目は、アンモニアやSAFなどの次世代燃料の活用をより促進することによる脱炭素化。三つ目が、今回の「環境価値管理プラットフォーム」などのシステムで、一つ目に申し上げた、製品の製造過程における脱炭素化と、製品の利用に伴うエネルギーの効率化・再エネ化などの効果を、最大化するためのプラットフォームの開発を行っています。

 環境価値管理プラットフォームは、産業機械や再エネ設備にデバイスを取り付け、電力消費や発電量などの稼働データからCO2排出量や削減量を算出します。そのデータをブロックチェーン上に記録することで、信頼性の高い環境価値を創出することを目指すデジタルプラットフォームです。

 このプラットフォームのコアになる技術には、ブロックチェーンが使用されています。ブロックチェーンは、データ構造として基本的には改ざんが不可能なものとされているため、収集し管理するデータは透明性かつ信頼性が高いものとして取り扱うことができます。さらに、CO2の削減量の計算についても、ブロックチェーンのスマートコントラクトと呼ばれる機能を活用しています。計算手法やロジックもブロックチェーン上に実装することで、計算自体の手法やロジックも透明性が高いため、信頼性の確保に寄与しています。

 また、削減したCO2の価値を流通や移転が可能なものとしてトークン化することで、今後、個人間や企業間で容易に価値を取引できる可能性があります。加えて、J-クレジット以外のカーボンクレジットに変換できる仕組みや、カーボンクレジットとトークンを同義で取り扱うようなことができるようになれば、さらなるカーボンクレジットの流通拡大、ひいては脱炭素が加速すると考えています。

 日本では現在、カーボンクレジットの制度はJ-クレジットが主流ではありますが、例えば海外から見たらJ-クレジットの割合は相当少ないため、グローバルに流通するカーボンクレジットに対しても、トークン化すれば対応できる。そのような拡がりをつくっていきたいと考えています。

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