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次世代に解を挑戦のプロット

PROJECT REPORTS 003

埋もれた価値を見える化し
“行動変容”へつなげるために。(1/4)

環境価値をクレジット化し環境と経済を好循環させるスキームを構築

NR-Power Lab株式会社 代表取締役社長 中西 祐一, 最高技術責任者 東 義一 / 恵那市 水道環境部 環境課 課長 磯村 典彦 / 恵那電力株式会社 代表取締役社長 村本 正義 / 株式会社IHI 高度情報マネジメント統括本部 長島 聡志

関連情報:【恵那電力プレスリリース|2022.9.29】恵那市、日本ガイシ、リコー、IHI 脱炭素・経済循環システムの実証事業を開始 ~環境価値をクレジット化し環境と経済を好循環させるスキームを構築~

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地域新電力会社「恵那電力」に、恵那市が参画された経緯と、設立後の取り組みを教えてください。

恵那市 水道環境部 環境課課長 磯村(以下、恵那市 磯村):恵那市は2022年3月にゼロカーボンシティを宣言し、同年5月に持続可能な開発目標(以下、SDGs)達成に向けた取り組みを先導的に進めていく「SDGs未来都市」に選定されました。市として、経済・資源の域内循環の仕組みを確立し、自立的で持続可能な地域社会の形成を目指ざしていく中で、地産地消のエネルギー導入促進と、災害時の地域のレジリエンス(対応力・回復力)の確保を主な目的として、日本ガイシと中部電力ミライズと協働し、恵那電力へ参画しています。

 設立後は、エネルギーの地産地消、地域マイクログリッドの構築による防災力の強化、また、太陽光発電の電力を使用することで、ゼロカーボンイベントの実施が可能となりました。一方で、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を起点とした「域内経済循環」を進めるための仕組みづくりなどの課題も見えてきました。

再エネを起点とした域内経済循環には、どのような課題がありますか?

恵那電力株式会社 代表取締役社長 村本(以下、恵那電力 村本):地域新電力会社の事業目的には、地産の電源から生まれる電気の地消を進めること、未利用地を発電所として有効活用することで、地域経済の活性化を図ることがあげられます。

 一般的に多くの地域新電力会社では、自社で保有する地産電源が、地域の電気の需要量に対して少なく、これを補うために外部からの電気の調達量を増やす必要があります。地産の電源の発電量は、どこもまだ少ないのが現状で、外部から調達する電気は、価格競争力が低くなります。このように地域新電力会社の収益は構造的に厳しいため、地産電源の開発投資は大きな挑戦となります。また、地産の再エネの価値を感じていただける電力需要家はまだまだ限定的です。

 これらの結果、電気の地産地消を起点とする経済循環そのものの輪がまだ小さく留まっていることが課題で、その輪を拡げるためにも、域内の消費者や事業者に地産電気の価値を目に見えるカタチで提示できる方法を模索しているなかで、今回、環境と経済を好循環させるスキームの構築をNR-Power Labと共創しています。

“環境と経済を好循環させるスキーム”とは、具体的にどのようなものですか?

NR-Power Lab代表取締役社長 中西(以下、NR-Power Lab 中西):大きく二つの輪を回すことで、再エネを起点に経済循環を生み出すスキームです。一つ目の輪は、恵那電力の取り組みの中で、恵那市で埋没している環境価値をIoTを活用し極力省力化しながら効率的にクレジット化することです。二つ目の輪は、そのクレジットを使いカーボンオフセット商品を創出し、その商品を通して域外から域内への経済循環を生み出します。

再エネを起点に経済循環を
生み出すスキーム

 流れを順を追って説明すると、恵那電力の再エネの発電量や電力供給先の消費量を「再エネ流通記録プラットフォーム」でトラッキングデータとして継続的に記録します。そのデータの中から「自家消費データ(※後述)」を、IHIの「環境価値管理プラットフォーム」に渡します。環境価値管理プラットフォームで、再エネのトラッキングデータをもとにCO2削減量を算出し、環境価値をトークン化します。そのデータをもとにJ-クレジット(※後述)の申請をし、認定されたクレジットが恵那市に渡ります。

 次に恵那市は、そのJ-クレジットを通し市内の事業者とコラボレーションします。今回、恵那市はふるさと納税の返礼品のカーボンオフセット化に取り組まれました。市外の方にカーボンオフセットを付加価値として、他よりもよりチャーミングな返礼品として選んでいただければ、結果として市外から資金が流入するという流れです。

 このように、恵那市内の再エネを起点に生み出された環境価値がカーボンオフセット商品となり、ふるさと納税を通して市外から資金が流入することで、域内の環境と経済の好循環を作り出すことを目指す、そういった仕組みです。

 実証実験の後、恵那市内でJ-クレジットを使ったカーボンオフセット商品の創出に岩村醸造が参画され、域内経済循環の輪がまわり始めようとしています。

[次ページ]提案に至った経緯と、J-クレジット制度とは
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