FROM LAB

次世代に解を挑戦のプロット

PROJECT REPORTS 003

埋もれた価値を見える化し
“行動変容”へつなげるために。(2/4)

環境価値をクレジット化し環境と経済を好循環させるスキームを構築

NR-Power Lab株式会社 代表取締役社長 中西 祐一, 最高技術責任者 東 義一 / 恵那市 水道環境部 環境課 課長 磯村 典彦 / 恵那電力株式会社 代表取締役社長 村本 正義 / 株式会社IHI 高度情報マネジメント統括本部 長島 聡志

1 2 3 4

今回の提案に至った経緯を教えてください。

NR-Power Lab 中西:多くの地域新電力会社が、電力を起点とした域内経済循環という非常に難しい課題に挑戦しています。恵那市と意見交換を重ねていくうちに、恵那電力を起点に域内経済循環を実現するためには、最小限のコストで「消費者の行動変容」と「地産電気の価値の最大活用化」がキーになるということを理解しました。ゼロカーボンイベントの開催はそれに向けた取り組みの一つです。

 当時、日本ガイシとリコーで、ブロックチェーン技術を使った再エネトラッキングの実証実験を行っていたため、この蓄積されていく再エネのデータを活用する方法はないか考えていました。例えば環境価値を地域通貨に変換してみるのはどうだろう、など様々なアイデアがありましたが、課題はコストでした。費用対効果の観点で、例えば環境価値を地域通貨に変換する費用が、地域通貨が生み出す価値よりも大きくなっては意味がありません。目的は「消費者の行動変容」と「地産電気の価値の最大活用」であり、再エネデータの活用はあくまで手段の一つだからです。他の先行事例を研究し、金融や保険など異業種を横断した協働先を探索する中で、リコー経由でIHIより今回のスキームの提案を受けました。

 この“域内に埋没している環境価値をJ-クレジットに変化し流通させる”という構想は、「消費者の行動変容」と「地産電気の価値の最大活用化」の両方を解決できる可能性があると直観しました。例えば、カーボンオフセット商品として付加価値が生まれることで、恵那市内の消費者や事業者に地産電気の価値を実物として示すことができます。一夜にして行動変容するわけではないですが、必ず一助にはなるはずだと考えました。

 また、ふるさと納税という既存のスキームを活用するため、仕組みを構築するための費用面でも他のアイデアと比べ軽く抑えられる。さらにふるさと納税の仕組み自体、経済的にレバレッジが効くのも魅力に感じました。

J-クレジット制度とはどういうものですか?

NR-Power Lab 中西:J-クレジットとは、企業や自治体のCO2の削減排出量や吸収量を、国が「価値」として認証する制度です。価値として認められるので、排出量を削減した環境価値の「創出者」側は、J-クレジットにすることによってその価値を売ることができますし、購入者はJ-クレジット購入分を自身のCO2排出削減量としてカウントできるなど、環境価値を見える化することができます。

 この制度の課題としては、J-クレジットは有償の価値として認められるものなので、当然ながらルールがあります。このルールそのものが複雑なことや、手続きがデジタル化されていないことから、申請に手間がかかることもあり、費用対効果の面で二の足を踏む企業や自治体が多いのが現状です。申請には第三者機関の審査を受ける必要がありますが、審査も最短でも3ヶ月に1回という制限があったり、1回当たり平均70万円ほど費用がかかるという現状があります。

 端的に言えば、J-クレジット化にかけるコストが結果に見合わない点を指摘する声が多く、この制度を利用するためには、再エネの計測や申請に必要な数値の算出など、申請側の手間をデジタル化することで軽減する必要性は強く感じていました。

今回のスキームを実現するため、どのような技術が必要でしたか?

NR-Power Lab 中西:今回のスキームで目指したのは、「J-クレジット活用を通した域内経済循環のDX」でした。まず、埋もれた環境価値を数値化するために、再エネの発電量や消費量などの正確な追跡データが必要ですが、これは以前からリコーと「再エネトラッキング」の実証実験を行ってきました。その蓄積した再エネのトラッキングデータをCO2の削減量の算出データと併せてJ-クレジットに変換する必要があり、それをIHIの環境価値管理プラットフォームに担っていただきました。

 DXというと、ITを活用してJ-クレジット創出部分のプロセスを改善するようなイメージを持たれるかもしれませんが、域内経済循環をコストをかけずに実現するため、様々なプロセスのデジタル化は確かに必須ではあるものの、目的は「消費者の行動変容」と「地産電気の価値の最大活用化」という新しい価値を産むことで、DXは手段に過ぎません。そういう意味でも、今回はこのメンバーで技術面だけでなく、スキームの構築から一緒に考えていきました。

[次ページ]「再エネ流通記録プラットフォーム」と「環境価値管理プラットフォーム」の役割
1 2 3 4
FROM LAB